はじめに
前回の記事では、共感力が高すぎて生きづらさを抱える人に向けて、自分の気持ちを大切にするための「マインドフルな共感」についてお話しました。
↓前回の記事はこちら↓

今回はそこから一歩進んで、「相手を深く理解する共感力の使い方」というテーマでお話していきます。
人と会話をしているとき、自分の心の状態を冷静に捉えられるようになると、相手が置かれている状況や気持ちに、より関心を向けられるようになります。
たとえば、誰かの話を聞きながら「この人はどうしてそう感じたんだろう?」「その状況、自分ならこうだけど、相手はどうなんだろう…??」と想像したり質問したりすることで、

そっかー!それは嬉しかったね!!
彼もきっと喜んでくれてるんじゃない?!
と、相手が経験している出来事を含めて、その感情を理解していくことができます。
こうした「自分の感情に巻き込まれず、相手の立場に立って寄り添う力」のことを、心理学では「認知的共感」と呼ばれています。
- 「相手ともっとわかり合いたいのに、どう伝えたらいいかわからない」
- 「共感しているつもりでも、なぜか気持ちがすれ違ってしまう」
——そんな悩みを抱える人に向けて、今回は、「認知的共感を使ったラポール(信頼関係)の築き方」をお伝えします。
あなたの繊細さや思いやりを、大切な人と心を通わせる力に変えていけるよう、少しでもヒントになれば幸いです。
1.認知的共感とは


共感には、「情動的共感」と「認知的共感」という2つの側面があります。
- 情動的共感:他者の感情を、まるで自分のことのように感じる心の働き
- 認知的共感:他者の立場に立ち、状況や背景等からその感情を理解しようとする心の働き
まずは、この2種類の共感の違いを、具体例を挙げながら説明します。
1-1.情動的共感


「情動的共感」とは、例えば、悲しんでいる人を見て、自分も悲しい気持ちになるといった心の働きです。
たとえば、



また面接だめだったよ…



そうなんだ…頑張って練習してたの知ってるから、俺も悔しいよ…
というように、「情動的共感力」のおかげで、私たちは、他者の感情を感じ取り、思いやりや支え合いの気持ちを持つことができます。
ただ、この「感じる共感」だけだと、相手の気持ちをきちんと理解するには不十分です。
なぜなら、それは「相手に自分を重ね合わせることで生じる自分の気持ち」を感じている状態だからです。
1-2.認知的共感


一方「認知的共感」とは、例えば、悲しんでいる人を見たとき「この人はなぜ悲しんでいるのだろう?」と、相手の立場に立ってその気持ちを理解しようとする心の働きです。
たとえば、



また面接だめだったよ…



そうなんだ…。
あんなに練習してたのになんでだろう…
どういう質問をされたの?



もしあなたが社長だったらどうしますか?
だって…



そうか…その質問はひどいね!
びっくりしたんじゃない?



そうなの…びっくりして、頭の中が真っ白になった…
というように、相手の視点に立ってその場面を想像しながら、その人がどんな状況でどんな気持ちを味わったのかを、寄り添いながら確認していきます。
そんなふうに、対話を重ねながら相手の気持ちを「理解する共感」それが「認知的共感」です。
「認知的共感」を意識することで、相手の気持ちや感じ方、ものの見方などについて、より深く理解できるようになります。
また、相手にとっても、「表面的な共感ではなく、自分の体験をきちんと受けとめた上で理解してくれた」といった信頼感や安心感が生まれ、より深いつながりを築くことができます。
2.マインドフルな認知的共感で築くラポールの4ステップ


ここからは、認知的共感を意識し、どのように信頼関係を深められるかについて、次の4つのステップに分けて解説していきます。
- 相手の感情を感じ取る(情動的共感)
- 自分の心を観察する(マインドフルネス)
- 相手の視点に立つ(認知的共感)
- 心が通い合い、信頼感が深まる感覚を共有する(ラポール)
(会話の事例を使いますが、共感がテーマなので、読者のあなたは、聞き手である「Bさん」だと想定して読み進めてくださいね。)
「情動的共感」は相手の感情に反応して自然に心に湧き上がります。
必ずしも言葉を返せなくても構いません。
表情や態度、相づちのトーンなどから「どうしたの?なんでも話してね!」といった安心感が相手に伝わればOKです!



また面接だめだったよ…



そうなんだ・・・あんなに頑張って練習したのに 〜!
悔しいねー!



うん…!めっちゃ悔しい~!!
会話の最中は、相手に刺激されて、様々な思考や感情が心の中に浮かびますよね。
ただ、自分の思考や感情に巻き込まれてしまうと、相手の話から意識が離れてしまいます。
マインドフルネスを使って、自分の心の状態に気づきつつ、うまく距離を取りましょう。



(俺も今、話したいことがあるんだけどな…)



(いやいや、今はAちゃんの話を聴くのが優先だ…)
自分の思考や感情と距離を取れたら、相手の視点に立って、その出来事をイメージしていきます。
まるで、相手の経験を一緒に追体験しながら辿っていく感覚です。
「自分だったら、きっとこう感じると思う。あなたはどうだった?」といった気持ちで、実際どうだったのかを、優しく問いかけながら、丁寧に確認していきましょう。



やっぱり緊張しちゃった…??《※1》
《※1》質問します



最初の5分ぐらいはね、緊張せずに自然体でいけたんだ。
けど、途中で意地悪な質問されて、テンパっちゃって…



えー! 意地悪な質問か… なんて聞かれたの??《※2》
《※2》共感の言葉を返しながら質問を続けます



もしあなたが社長だったらどうしますか?
だって…
もう、超イジワルだよねー!



(なるほど…俺だったらこう答えるかな…)《※3》
《※3》「自分だったら~」と浮かんだらマインドフルネスを意識します



(いやいや…Aちゃんにとっては、そんなことはどうでもいいな…)
《※4》
《※4》「自分=相手ではない」ことと思い出し「相手の視点」に集中します



えー!急にそんなこと聞かれたんだ!
それは意地悪な質問だね!
テンパっても無理もないよ~



でしょ~!
私別に、社長になりたくて応募したわけじゃないのに!



そうだよね…



大変そうだし…



大変そうだし…(笑)



(笑)



それにさ、俺も見たけど、
ホームページにそんな感じのこと全く書いてなかったよね?!《※5》
《※5》質問しながら相手が安心できる糸口を探します



書いてなかった!!



うん、だったら、Aちゃんは何も悪くないって俺は思う。
相性の問題だよ!



Bくんもそう思うよね?!
良かったー
ありがとう…
Bくんのおかげで落ち着いてきたよ…
相手の視点に立ち、対話を重ね、経験や感情を両者が分かち合えたとき、信頼関係という強力な絆が生まれ、お互いのラポールは一段と深まっていきます。



実は私ね…、他の応募者の人たちは、みんなそういう質問にも柔軟に答えられて、答えられなかった私は準備不足なのかな…?
って、めっちゃ落ち込んでたんだ…
あれだけ面接の練習したのに、またダメだったって…



まさか!
これ以上、何を準備するのさ、ってぐらい頑張ってたじゃん!



でもさ…、私って柔軟性ないじゃん…?
だから、準備は頑張れても、本番でなかなか答えられなくてさ…
失敗ばっかりでさ…(泣)



でも世の中にはさ、
「あっこのコ、めっちゃ準備してきたんだな!素晴らしい!!
本番になると苦手らしいけど、そこはOJTで場数踏んでくれればいいし!」
って言って、《準備できるところを長所として》見てくれる面接官だってきっといるはずじゃん?!



そっかぁ…本当にそんな人いるかなぁ…??



いると思う!
それに、Aちゃんには他にも良いところがいっぱいあるって、俺は知ってるじゃん?
だから、その良いところをちゃんと評価してくれる会社が絶対にある。
一緒に探していこうよ!! 応援してるから!



ありがとう!!
Bくんが、そう言ってくれたから、すごい安心した!
本当に救われたよ…
信じてみるよ。
まとめ
――あなたの気持ちをちゃんと知りたい! 私の理解は合っているかな…??
今回ご紹介した「マインドフルな認知的共感」は、そんなもどかしい気持ちを相手にぶつけずに伝えながら、信頼関係を深めていける強力な“スキル”です。
自分の心の動きを観察し、感情や思い込みと距離を取りながら、相手の視点に立って丁寧に寄り添うことで、ただの「共感」から一歩進んだ「理解と信頼の対話」が生まれます。
あなたの持つ思いやりや繊細さが、相手との心のつながりを育む力になるように願っています。
参考文献
- 岡田 信吾, 安藤 治 (2009). 瞑想によって共感能力は高まるのか. トランスパーソナル心理学/精神医学, 9(1), 54-57. https://doi.org/10.32218/transpersonal.9.1_54
- 土原 浩平, 長谷川 晃 (2017). 【原著論文】マインドフルネス特性と注意制御が共感性に及ぼす影響. 東海学院大学紀要, 11, 51-61. https://tokaigakuin-u.repo.nii.ac.jp/record/3615/files/20171109.pdf