はじめに
- あんな失敗してしまったから、私は解雇されるかもしれない…
- 私のダメな部分を見せてしまったら、きっと嫌われるに違いない…
- この面接に受からないと、俺にはもう後がない…
- やっぱり俺には無理だったんだ…
そんな極端な考えが頭から離れず、自分を責めすぎてしまうことはありませんか?
失敗や欠点に直面したとき、私たちはつい視野が狭くなってしまいがちです。
白か黒か、0か100か——まるで中間のない世界で生きているかのように。
こうした思考パターンは「白黒思考」と呼ばれ、自己否定や完璧主義を強め、心を疲れさせてしまいます。
けれど、本当にすべてを「良い」「悪い」で決めなければいけないのでしょうか?
この記事では、「白黒思考」から「バランス思考」へと視点を切り替える方法を、具体的なステップを交えて紹介していきます。
ほんの少し考え方を変えるだけで、自分に優しくなれたり、気持ちがふっと軽くなったりすることがあります。
この記事が「自分を否定せずに生きるヒント」が見つかるきっかけになれば幸いです。
1.白黒思考とバランス思考の違い
まずは、白黒思考とバランス思考、それらの特徴を簡単に解説したいと思います。
1-1.白黒思考とは

「白黒思考」とは、物事を極端に「良い」「悪い」で判断してしまう考え方のことです。
たとえば、

1分遅刻してしまった…



上司は絶対、私のこと、仕事ができないヤツだと思ってるわ…
というように、ひとつの欠点や失敗から自分の全部を否定してしまう思考パターンです。
必ずしも、心の中にはっきり浮かばなくても、「自分は完璧でなければ価値がない」といった誤った信念を無意識に持っている人も多いと思います。
1-2.自己否定する声に気づく


ですが、考えてみてください。
もし、親友やパートナーが同じような悩みを抱えているとき、あなたは、同じ言葉をかけますか?



1分遅刻してしまったよ…



あなたってホント仕事ができない人ね!
——そんなひどい言葉を、親友やパートナーに投げつけたりしますか?
それとも、



1分の遅刻だけで、あなたの仕事ぶりが評価されることはないと思うよ?
自分を責めすぎずに、次から気をつけたらきっと大丈夫だよ!
というように、優しく励ます言葉をかけるでしょうか?
相手にとって、気持ちを切り替えて前進する力になるのは、どちらの言葉だと思いますか?
1-3.自己受容につながるバランス思考


たったひとつの失敗や欠点で、その人の全てが決まるわけではありません。
誰にだって、良い所もあれば、改善したほうがいい所もあります。
重要なのは、バランスの取れた見方ができるようになることです。
全てを白か黒かではなく、グレー(中間)も視野にいれる考え方を「バランス思考」と私は呼んでいます。
バランス思考を取り入れることで、
- 「完璧な人なんていない」
- 「みんな良い面も悪い面も持っている」
- 「私には良いところがいっぱいある」
というように、長所も短所も含めた「ありのままの自分」を肯定し受け入れていけるようになります。
それでは、どうすればバランス思考を受け入れていけるようになるのでしょうか?
2.白黒思考からバランス思考へ


ここからは、白黒思考からバランス思考へと切り替えていくための考え方を解説したいと思います。
- 白黒思考に気づく
- 白黒思考に反論する
- バランス思考を採用する
2-1.白黒思考に気づく
まずは、心に浮かんだ考えが「白黒思考」だと気付くために「ラベリング」という方法を紹介します。
たとえば、心の中で、小さな失敗から自分を全否定してくる声が聞こえたら、それを「白黒デビル」だとラベルをつけるようにします。
以下に、3つの場面の例を挙げます。
職場にて



上司に書類のミスを指摘された…



上司はキミを嫌っているに違いない…
パートナーシップにおいて



週末の約束を断られた…



他に好きな人ができたんだよ、きっと…
親子関係で



何度言っても娘が片付けをしない…



あんたは親として失格なんだよ…
2-2.白黒思考に反論する
「白黒思考」に気づけたら、それに反論するための質問を投げかけます。
たとえば、次のような質問が有効です。
- 証拠はあるの? それは事実ではなく自分の思い込みなんじゃないかな?
- たった一つの出来事だけで、全部を決めつけてないかな?
- 結論を急ぎすぎてない? その結論が間違っていると分かる証拠はない?
- 自分に厳しすぎなのでは? 友人から同じ悩みを相談されたらどう答える?
- その考えにこだわって何か良いことはある? 悪い方向へ自分を追い込んでないかな?
- それは自分の責任なのかな? もしかすると他の誰かの問題かもしれないよ?
- 短所ばかり考えてない? 長所もたくさんあることを忘れてないかな?
職場にて



上司に書類のミスを指摘された…



上司はキミを嫌っているに違いない…



上司がAさんを嫌っているっていう証拠はあるの?
↑反論するための質問①を使っています。



「請求に関わる重要書類なので、以後気をつけてください」と言われたからさ!



うーん…それだけで上司がAさんを嫌ってることにはならないよね。



上司は、Aさんに「正確な請求書類を作成してほしい」と期待してくれてるかもしれないよ?
パートナーシップにおいて



週末の約束を断られた…



他に好きな人ができたんだよ、きっと…



それは結論を急ぎすぎよ。理由を聞いたの?
↑反論するための質問③を使っています。



「クライエントの都合でどうしても休日しか無理だから」とかなんとか…



うーん…それだけで浮気を疑うのは早いんじゃない?
彼のその話が本当だと言えそうな証拠はないの?
↑反論するための質問③を使っています。



彼のグーグルカレンダーにも確かに「クライエント対応」ってなってた…



じゃあ、彼を信じてみたら?
親子関係で



何度言っても娘が片付けをしない…



あんたは親として失格なんだよ…



もし、仲良くしているママ友さんから同じ相談をされたら、Cさんはどんな声をかけるの?
↑反論するための質問④を使っています。



そりゃ、「うちの娘も一緒よ」って共感すると思うわ…



でしょ?!ってことは、Cさんが親として失格なんかじゃないよね?



他のママさんたちも悩むような「あるあるな話」ってことだよね?
2-3.バランス思考を採用する
白黒デビルに対してバランス天使の反論を投げかけたら、どちらを採用するかを選びます。
職場にて



上司はキミを嫌っているに違いない…



上司は、「正確な請求書類を作成してほしい」と期待してくれてるかもしれないよ?



そうだね…そう期待されてるって考えてみるよ…
パートナーシップにおいて



他に好きな人ができたんだよ、きっと…



彼を信じてみたら?



そうね…、彼を信じてみるわ…。
親子関係で



あんたは親として失格なんだよ…



他のママさんたちも悩むような「あるあるな話」ってことだよね?



確かにそうね…。完璧な親なんていない、って考えてみるわ。
最初のうちは、感情が追いついていかない感覚を感じるかもしれません。
しかし、もしあなたが本気で「自己否定をやめたい」と望むのであれば、根気強く取り組むことで、きっとその思考パターンを変えていけるはずです。
まとめ
白黒思考とは、「良い/悪い」「成功/失敗」「正解/不正解」などと、極端に物事を判断してしまう思考パターンです。
このような考え方は、自己否定や人間関係のストレスを強めてしまうことがあります。
一方で、バランス思考は、
- 「良いところもあれば、そうでないところもある」
- 「完璧じゃなくても、自分には価値がある」
といった柔軟な見方ができる考え方です。
このバランス思考を身につけることで、自分をありのままに受け入れ、心が安定し、前向きな行動につなげることができるようになります。
あなた自身を大切にするための健全な思考パターンを、少しずつ育てていきましょう。
参考文献
- メラニー・フェネル(2004). 自信をもてないあなたへ – 自分でできる認知行動療法 – (曽田 和子, 訳). CEメディアハウス. (原著: Overcoming Low Self-Esteem). https://amzn.to/3FjyStH
- グレン・R・シラルディ(2019)自尊心を育てるワークブック[第二版] – あなたを助けるための簡潔で効果的なプログラム –. 金剛出版.(原著:The Self-Esteem Workbook: Second Edition). https://amzn.to/3ZvARBO
- マシュー・マッケイ(2018). 自尊心の育て方 – あなたの生き方を変えるための、認知療法的戦略 – (高橋 祥友, 訳). 金剛出版(原著: SELF-ESTEEM). https://amzn.to/43H6ZE3