はじめに
誰かと話すとき、「本音をうまく言えなかった」「言いすぎてしまった」と感じた経験はありませんか?
自分の気持ちを大切にしながら、相手への思いやりも忘れない――そんなバランスの取れた伝え方を目指すのが「アサーション」というコミュニケーションの方法です。
今回の記事では、実際の会話例を交えながら、「自己表現の3つのタイプ」を紹介していきます。
あなたの日常の場面を思い起こしながら、「アサーションとは何か?」というイメージを掴んでいただけると幸いです。
1.アサーションとは

アサーションとは、「自他尊重に基づく自己表現」のことです。(用松 ほか, 2009)
つまり、相手のことを尊重しながら、自分の意見や気持ちを伝える行為のことです。
——そんなことできるの?? それができりゃ、苦労しないよね…?
って思われるかもしれませんね。
そのため、アサーションではない、つまり、「自分か相手、どちらかしか大切にできていない伝え方」と比較しながら、その効果を見ていきたいと思います。
2.自己表現の3つのパターン

人が、自分の気持ちを誰かに伝えるとき、その伝え方は大きく3つに分けられます。
- 受動的(ノンアサーティブ):
相手のことを優先し、自分のことは大切にしない自己表現 - 攻撃的(アグレッシブ):
自分のことは大切にするけど、相手のことは大切にしない自己表現 - アサーティブ:
自分のことを大切にしながら、相手のことも大切にする自己表現
(用松 ほか, 2009)
以下では、それぞれの表現が実際にどのように現れるのか、日常の場面を例に見ていきましょう。
あなたの場合、どういう場面でどのパターンが当てはまりそうか、なんとなく想像がつくでしょうか?
2-1.受動的(ノンアサーティブ)な自己表現
自分の感情や希望を後回しにし、相手に合わせることを優先する伝え方です。
周囲には優しい人と思われやすい反面、自分をすり減らしてしまうこともあります。
2-1-①. 急な残業を頼まれると…

急で悪いけど、今日残業お願いできる?



…あ、はい! 大丈夫です!



(妻の誕生日だし、早く帰るって約束しちゃってたんだけど…)
2-1-②. 親友の愚痴に対しては…



クライエントがまたブッチしてきたよ…



そうなんだね~



(今はちょっとしんどい…)
2-1-③. パートナーにドタキャンされて…



ごめん、今週末ちょっと行けそうになくて…



あ、そっか…全然、大丈夫だよ!
気にしないで!



(楽しみにしてたのに…)
このように、
本音を飲み込んでしまうのが「受動的な伝え方」です。
「迷惑をかけたくない」「嫌われたくない」といった気持ちは、一見、相手に配慮しているように見えるかもしれません。
しかし、相手からしてみると、
- 「多少無理なお願いも、喜んで聞いてくれる」
- 「頼んでも怒らないからこれからも助けてもらおう」
といった気持ちになりやすいため、
知らず知らずのうちに、自分の負担が積み重なってしまうことが多くなります。
2-2.攻撃的(アグレッシブ)な自己表現
自分の主張を強く押し出す反面、相手の感情や状況への配慮が足りない伝え方です。
感情的な口論になりやすく、良好な人間関係を築いていくのは難しくなります。
2-2-①. 急な残業を頼まれると…



急で悪いけど、今日残業お願いできる?



えっと…、またでしょうか…?
ちょっと私ばかり仕事を抱えてしまっている気がするんですが…
2-2-②. 親友の愚痴に対しては…



マジで店長ムカつくんだけど!今日もさ…



いや今それ聞いてる余裕ないんだわ。
私のこの状況見て分からないかな…?!
2-2-③. パートナーにドタキャンされて…



ごめん、今週末ちょっと行けそうになくて…



は?何それ、直前すぎるんですけど…?
私がどれだけ楽しみにしてたか、分かってるの?!
このように、
相手の状況や気持ちを考えずに、自分の不満や怒りをそのままぶつけてしまう「攻撃的な伝え方」は、使えば使うほど信頼関係を壊してしまうリスクが高まっていきます。
2-3.アサーティブな自己表現
自分の正直な気持ちを伝えながらも、相手の状況にも思いやりを持って対応する伝え方です。
健全な人間関係を築くために、大切で必要なコミュニケーションスキルといえます。
2-3-①. 急な残業を頼まれると…



急で悪いけど、今日残業お願いできる?



申し訳ありません。私、今日はこのあと外せない用事があって難しいんです。
ただ、明日でも大丈夫であれば、私、引き継げます。いかがでしょうか?
2-3-②. 親友の愚痴に対しては…



マジで店長ムカつくんだけど!今日もさ…



話してくれてありがとう。
でもごめん、私、今日はちょっと疲れてて、ちゃんと聞いてあげられそうにないんだ。
明日でも大丈夫なら、またゆっくり聞かせて?
2-3-③. パートナーにドタキャンされて…



ごめん、今週末ちょっと行けそうになくて…



そうなんだ…。
残念だけど仕方ないよね。
楽しみにしてた分、また別の日にゆっくり会えたら嬉しいな。
このように、
相手の気持ちや状況に配慮しながら、自分の感情や都合をきちんと伝えることで、尊重し合える信頼関係を築いていけるのが、アサーションです。
難しく感じるかもしれませんが、アサーションは「スキル」なので練習することで、少しずつ身につけていくことができます。
まとめ
このように、アサーションは、「相手との関係を壊さずに、自分の意見や気持ちを伝える」コミュニケーションの形です。
- 自分を後回しにしてしまう人も…
- 感情をぶつけすぎてしまう人も…
アサーションを身につけることで、お互いをきちんと尊重し合った、清々しく健全な人間関係を築いていくことが可能になります。
次回の記事では、「アサーティブな表現を練習する具体的な方法」について取り上げていきますね。
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参考文献
- 用松 敏子, 坂中 正義(2009). 日本におけるアサーション研究に関する展望. 福岡教育大学紀要, 第四分冊, 教職科編, 53, 219-226. http://hdl.handle.net/10780/505
- マシュー・マッケイ (2011). 弁証法的行動療法 実践トレーニングブック‐自分の感情とよりうまくつきあってゆくために‐星和書店.(原著: Dialectical Behavior Therapy Skills Work-book: Practical DBT Exercises for Learning Mindfulness, Interpersonal Effectiveness, Emotion Regulation & Distress Tolerance). https://amzn.to/47S8FeO